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[nikomat 9310] Re: NASA F5
長文堂でござい。ご無沙汰してます。
カメラやクルマの話にはついていけないけど。。。
西野さん:
> あと半田付けですが技能認定は有りましたね。 特に搭載機器は宇宙空間の
> 温度変化の激しい所で使われるので半田の中に空気が入ったり微少なピンホ
> ールが出来ると困るのでそれこそ半田付け何十年と言うおじさん(職人ですね)
> がいてホントにほれぼれする様な手つきで仕事をしていた事が思い出されます。
> 最近では効率重視でそういう人材もすっかり少なくなったそうなのですが私が
> 在籍時にはそういう職人的な人たちがごろごろ工場に居ましたね。
私の商売とする低温関連機器は、室温にあるモノを液化ヘリウム(-269℃
=4.2K)に突っ込んだりするんで(低温→室温は日常ですな)温度変化が
強烈です。それでも導通がキッチリ保たれなければなりません。
初心者は、室温でテスターでしらべると抵抗0オーム、ヘリウムに突っ
込んだら絶縁バッチリなんて見事な半田付けを連発します。これは判断
が簡単です。
もう少し技量が進むと不可思議なデータが出る半田付けをやります。
”大発見!”とダマされることも稀にありますが、普通はデータが再現
しないので(逆に、意図的にこういうデータを出すのは非常に難しい)
見分けがつきます。なぜこういうデータが出るのか理由はわかりません
が(低温でトンネル接合になるのか?)、測定器から出たデータを鵜呑
みにしてはイケナイという教材になります。
#測定者の名前を見てからデータを見ることも覚える、かな?
半田(錫:鉛=60:40の合金、溶ける温度183℃)は”半田付け”
は比較的容易です。183℃のような高温を嫌うモノを使うときや超伝
導を嫌う(半田は4.2Kだと超伝導です)場合は、ハンダの代わりに更に
”半田付け”が難しい低融点のウッド合金を使うことも多いです。真空
度や温度などの関係でハンダもウッド合金も使えないとなるともっと厄
介なことになります。
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微小なピンホールは低温機器にとってシリアスな問題です。普通、低温用
真空容器にはピンホールが出来にくく、強度の大きい銀ロウを使いますが
工作の都合で仕方なくハンダを使う場合もあります。
#接合部のピンホールだけでなく材料そのもののピンホールもね。
断熱用真空容器を作っても微小なピンホールがあればヘリウムは容赦なく
襲って断熱を駄目にします。なにせサイズ最小&電荷無しですから室温で
もガラスを透過するほどです。
#ガラスの魔法瓶にヘリウムガスを満たして一晩ねかせたら魔法瓶はダメ
#になります。これを元に戻すのはちょっと面倒です。
室温でもコレなのに、液化ヘリウムを2.2Kに冷却すると超流動になるから
更に凄いんです。室温や液化窒素温度で調べるとリーク無しだが、超流動
ヘリウムに接触すると突然大きな漏れが始まったりします。この場合、何
処に漏れがあるのか特定するのが非常に難しく、結局全部廃棄して作り直
すことも多いです。
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こういう厳しい半田付けは、設計はもちろん、半田付けまでの段取り、温
度、フラックスの選択、加熱方法、コテやバーナーの当て方などノウハウ
の世界です。同じ図面でも”誰が作ったか”で使える、使えないが分かれ
ます。
慣れると”この半田付けは低温で導通不良になる””漏れる”と見た目で
ある程度わかるようになりますが、”超流動で漏れる”っつうのだけはプ
ロでも見ただけではわかりません。細心の注意を払って半田付けし、あと
は祈るだけです。そうやったところで、半田付けは何年か使ってヒートサ
イクルを繰り返すウチに漏れが始まります。
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こういうカネにも論文にもならない伝統技能を動態保存し、次代に伝承す
るのも国立大学の使命のウチだと思うけど、独立なんちゃらになったらど
うなることやら。
正倉院御物じゃあるまいし、半田の乗りだの、艶だの、バーナーの当て具
合なんぞ、ビデオやCD−ROMに入れて保存したところで何の役にも立
つまいて。ヤケドしながら技能を身につけた人を大事にせにゃ。。。
#亀裸ブレ、ピンぼけの克服と同じである、とカメラに戻してROMに戻る。
こやの長文堂