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[nikomat 35802] Re: Re: デジカメのCCD について
ひうらっす.
加藤さん:
最近は非常に技術の進歩が早く,デバイス技術はあまりフォローしていないので
あまり深入りするとちゃんとは論じられないのですが,・・・
ごく一般論でいきます.
一度,自分としてもしっかり整理しておきたいことでもありましたので.
>少し話しがそれますが、とある情報詩で
>デジタルは銀塩よりもラチチュード(ダイナミックレンジと言うのか?)
>が広いと言う記事を読んだ様な記憶があります。
>と言う事は、明暗の混在する写真でのハイライト、シャドー部の諧調表現が
>優れている(潰れない)という事になるかと思いますが、この辺はいかが
>でしょうか?また、この特性とCCDのサイズに相関はあるのでしょうか。。。
難しいところですね.銀塩にも,デジタルにも,いろいろありますから・・・
また,ノイズの乗り方も違いますから,一概には比較できません.
(露光時間が長いほどデジタルが不利になります.)
ただし,一般には画素が大きいほうがダイナミックレンジは広いと言われます.
ここでノイズについてちょっと考えてみます.
以下はデジタルを使う上で理解しておいて損はない考え方ですので,・・
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例えば,デジタルで,1つの画素が 0 - 99 の 100 段階 (10^2)の濃度値を
持つとします.これは,各画素は 10^2 のダイナミックレンジしか持たない
ことになります.
ここで,例えば,各画素には 0 から 1 までのどれかの値のノイズが乗ると
仮定します(熱雑音).で,出てきた答えを四捨五入した整数値が画素値に
なる(AD変換される)としてください.
ここに,値1の光が入ると,あるものは 1.1 になったり,別のものは 1.9 に
なったりしますから,四捨五入すると 1 か 2 になることになります.
そこで,画素を 10 個束ねて平均を取ることを考えます.すると,あるものは
1の露光量に対して 1 になったり,またべつのものは 2 の値になったり
しますから,例えば 1 の画素が5つ,2 の画素が5つだったとすると,
(1 * 5 + 2 * 5) / 10 = 1.5
となって,あら不思議,小数点以下が出てきて 0.1 の位までの値がわかり
ました.ノイズのせいで,平均的には各画素に 0.5 が加算されている
(暗電流)ので,これを引くと 1.0 が得られます.
また別の10個では,1が4つで,2が6つかもしれませんが,この場合は
0.9 になるし,別の10個の平均は 1.1 になるかもしれません,が,
少なくとも 1.4 とか 0.6 は確率的にはほとんど発生しません.
#これは,「大数の法則」という確率の原理です.コインの表裏の賭けで,
#試行回数を増やせば,表の出現率は 0.5 に近づくというやつです.
このように,ノイズが乗ってきても,画素同士の値を足し合わせると,この
ノイズは平均されていきますので,相対的には乱雑さが減少します.
一般的には,まったくランダムな(独立な,と言ったほうが正確)ノイズが
発生していると考えると, n 個の画素の値を足し合わせると,ノイズの
量は √n になります.
例えば 100 個の画素の値を足し合わせると,ノイズの量は 100 倍に
なるのではなく,10倍になります.
上の例では,画素値を 100個足し合わせて 100 で割ると,0.01 の
位まで画素値(明るさ)が分かるようになりますが,ノイズは 10倍に
なり,これを 100 で割ることになるので,結果的には,ノイズは
1/10 に減少して,ダイナミックレンジは10倍になったと言うことが
出来ます.
要するに画素を n 個加算するとノイズは 1/√n になると考えてください.
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・・・で,本題に戻りますが,
D1 などでは1つの画素が大きいです.例えば話を簡単にするために,コンパクト
デジカメより画素面積が16倍(4の2乗)大きいと考えてください.
この場合,同じだけ光が当たっても感度は16倍になります(電流が16倍になる).
熱雑音はところかまわず発生するので画素が大きいとその分増えますが,これは
独立事象ですので,暗電流は16倍になりますが,熱雑音のばらつきは4倍にしか
なりません.
というわけで,そもそも基本的な感度が高いだけではなく,さらにダイナミック
レンジが4倍(2ビット分),高いということになります.
で,最終的な結論に行きますが
●画素は大きいほうがいいのか
大きいほうがいいのは確かです.
ただし,同じCCD面積で,画素が小さく画素数が多いと,各画素あたりの
ダイナミックレンジは低下しますが,最終的に同じ画素数に落とすのであれば,
画素数の多い画像を縮小するときに画素同士で平均を取りますから,やはり
ダイナミックレンジは向上します.画素数の多いデジカメから小さい画像を作ると,
大変滑らかで綺麗な画像になるのはこのためでもあります.
だから画素が大きいほどいいのではなく,最終的には,「CCDが大きいほう
がいい」ということになります.
●時間,感度の問題
熱雑音は時間的にも乱雑なノイズです.ですから,暗電流は,時間に比例して
増えます.ただし,時間にも独立な事象ですから,乱雑さは時間の平方根に
比例します.つまり露光時間が4倍になると暗電流は4倍になりますが,
これは引くだけで消えるのでノイズレベルは2倍になるということです.
ということは,単純に熱雑音だけを考えるなら,明るいところで短時間
露光するならあまり考える必要はありません.むしろアンプやAD変換部までの
アナログ回路部のノイズが問題になるでしょう.
デジカメで,室内などの暗いところをノーフラッシュで撮ったことのある人なら
体験していると思いますが,暗いところをスローで撮るとけっこうなノイズが
出ます.綺麗な写真を撮るにはフラッシュ等でシーンを明るくせねばならない
という問題があります.
またCCDが大きい(画素が大きい)と,感度が高いので,同じF値ならそれだけ
露光時間が減らせ,ノイズが減ります.
デジカメで「ISO1600 モードも十分使える」などの記事がありますが,あれは
片手落ちで,シーン明度とシャッター速度を付記しないと意味がありません.
(フィルム感覚の評価になっちゃってるわけですな)
スポーツイベント等で高速シャッターを切るのに使うと,すばらしくいい絵に
なりますが,ご家庭でノーフラッシュで撮るとダメでしょう.
けっこう,「小型デジカメでもはまるとキレイ」というのはこのへんが大きい
気がします.
●熱雑音以外の問題
これも結構大きいと思います.アナログ部の体力ですね.デジカメは撮影後の
圧縮などのときに電池から爆発的に大きな電流を取り出しますので,このノイズが
回ってこないようにするのは結構難しいと思います.高級なデジカメは,やはり
この辺は真剣に開発しているのでは・・と想像されます.
あとは,ピクセルごとのばらつきがあり,ノイズが流れ込みやすいというか,
暗電流の多いピクセルと少ないピクセルがあったりします.これを補正している
機種としない機種があると思います.
●最終形態の問題
jpeg は 8bit 画像の表現形式ですので,頑張っても 0 - 255 の 256 段階の
画素値しかありません.しかも,圧縮時にノイズが乗ります.高品質な圧縮でも,
最低位のビットは保証されないと考えたほうがいいでしょう.
もちろん圧縮率を上げるともっとひどくなります.
シーン明度が高い場合のダイナミックレンジを論じるには,12bit や 16bit の
tiff や raw でないとあまり意味が無いですね.
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で,銀塩との比較ですが,やはり銀塩もノイズが多いです.
銀塩フィルムでは,データシートなどを見ますと,露光量と濃度(フィルムの
濃さ)の関係では,10^4 に達するものもあります.
そういう意味では結構ダイナミックレンジはかなりあるように思えます.
ただしこの濃度というのは,フィルム全体で測ったものであって,
「フィルムのごく一部分がどの程度のダイナミックレンジを持つか」という
ことではありません.言い換えれば,どの程度ノイズが乗るかについては
全く勘案されていません.
で,濃度曲線だけを見ると,高感度フィルムのほうがダイナミックレンジが高い
ように見えるのですが,実は粒が大きくノイズが多いので,単位面積あたりで
見るとノイズが大きいのです.ですからノイズの少ない低感度フィルムのほうが
実質的なダイナミックレンジは高いです.
それと露光時間や露光量の問題があり,露光時間にはノイズ量は影響されませんし,
露光量が多いほうが相対的にノイズレベルが下がります(低感度の小粒の粒子が
有効になるため).
またカラーフィルム(ネガ,ポジ)では解像度と粒状感がトレードオフで,色素が
広がりやすいフィルムは解像度が低いですが,ノイズ感が少ないです.
ただし最近のプロビア 100F などは非常に高品質でノイズ感も粒状感も小さいですね.
というわけで,単純な比較は難しいですが,
・長時間露光はフィルム有利,スポーツ等はデジタル有利
・同じフィルムフィルムでも,でかいほど,ダイナミックレンジ的に有利
(単位画角あたりの面積が大きいから)
というところでしょうか?
> > この画質低下(回折)による画質低下は,「F値」<−>「単位長さあたりの
> > 解像度」という関係ですので,画面が小さいほど,相対的に大きく影響する
> > ことになります.
>すみません、この部分が良く分かりませんでした。
>大変恐れ入りますが、”光の回折による画質低下”からお教え願えますか?
光はレンズいくら絞ろうとしても,波の性質を持っているために,絞りきれない
のです.絞れる度合いは,ある基準では,F値と波長で決まりまして,
ミクロン単位で 1.22・λ・F
になっています.λが可視光で 0.38μm - 0.76μm ですので,ま,大雑把
に 0.5μm とすると,F4 ですと,2.5μm ぐらいになります.
最近のデジカメの CCD では幅 6mm ぐらいのものがけっこうありますが,
もしも仮にこれが 600万画素では,1画素が大体 2μm ぐらいという
ことになり,きわどいレベルということになりますね.
実際には 500 万画素級のカメラは,幅 12mm ぐらいありますが.
F8 より絞ると明らかに画質劣化が分かるでしょうね.
同じ600万画素でも,APS サイズなら 9μm ぐらいありますのでOKですね.
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日浦 慎作 Shinsaku HIURA
大阪大学大学院 基礎工学研究科
システム人間系専攻 システム科学分野
〒560-8531 豊中市待兼山町 1-3
TEL:06-6850-6372 FAX:06-6850-6341
http://www-inolab.sys.es.osaka-u.ac.jp/users/shinsaku