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[nikomat:02674] Re: [Q] About APO Lense
日浦@阪大です.
SHIGEKI_KAWATA@HP-JAPAN-OM1.om.hp.com さんが 6:50 PM 97.2.18 +0900ごろに
> ニコンのEDがアポに近いことはわかりました。がニコンの場合
> EDレンズを使っているのは望遠系だけですよね。他メーカーの
> 場合、マクロレンズや広角もあるようなのですが、ニコンでは
> マクロレンズで近接補正方式とかいっているのがアポと同じこと
> なのでしょうか?
いえ,これは違います.収差にはいろいろな種類があり,アポというのは
これまでの話題でお分かりの通り,色によって焦点がずれる問題(色収差)
を補正したものです.
収差には,これ以外に主に
・球面収差
・非点収差
・コマ収差
・像面湾曲
・歪曲
があります.ニコンの近距離補正方式は,このうち,近接時に起こりやすい
像面湾曲を主に補正する機能だと考えられます(もちろん他の収差も補正す
ることが出来る場合がある).
> 広角でアポ技術を使う意味ってあるんでしょうか?
色収差は,望遠レンズになるほど顕著になり,広角レンズでは
問題となりにくいのでEDレンズは使われていません.
> ニコンでは
> 非球面レンズを使ったレンズはいくつかありますが、これも
> 意味的にはアポですか?
> (なんとなく違うような気がする)
非球面レンズは,球面収差と歪曲の補正に特に有効だと思われます.
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一度書いておきたかった,各収差の説明です(釈迦に説法という気も
しますが,お暇な方はどうぞ).
#間違ってたら教えてください,というのが本来の目的だったりする.
レンズ 像面
-------上-()-- |b
( ) --- | ↑
( ) --- | ↑
中央( ) --|a 横
( ) --- | ↓
( ) --- | ↓
-------下-()-- |
←←縦→→
まず,この「縦」「横」を定義しておきます.これは,レンズ系の話では
一般的な置き方です.
また,説明の都合上,上下左右を,レンズを正面から見たときの上下左右
に使うことに決めておきます(これは私の勝手な置き方).像面での中央
を a, 上方の点を b とします.
・球面収差
レンズの光軸近傍の光が正しく像面に像を結んでいるとき,レンズ外周
(上下左右)を通った光は,やや「縦」方向にずれた位置に結像するこ
とがあります.これを球面収差といい,球面を用いたレンズでは必ず
発生するのでこう呼びます.画像中心部(a)での像のぼけを決めます.
ソフトレンズはこの収差のみを意識的に残しているので,全体的にハロ
が残った柔らかな描写となります.
ボケの美しさ,というのもこの収差によりかなり決定されます.
絞り込めばこの収差は解決します.
・像面湾曲
無限遠に,画像の中心(a)でピントを合わせたときに,周辺部もきちん
とピントが合わないといけません.しかし,レンズの中央付近を通っ
た光が,(b)の付近では「縦」にずれた位置で結像することがあります.
これを像面湾曲と言います.
これは中心光束に関する収差ですので,絞っても「収差の値」としては
変化しないのですが,縦収差というのは絞るほどその影響は少なくなって
きますので,像的には絞ると解決します.
・非点収差
画像中心部(a)で球面収差が補正されており,また,画像周辺部(b)で
像面湾曲が補正されていたとしても,画像の端(b)のほうではまたもや
レンズ外周部と中心部を通った光の焦点が「縦」にずれることがあり
ます.
球面収差では,画像の中央(a)の問題ですので,上下を通った光と左右
を通った光は同じ場所に結像しますが,非点収差の場合にはこれが重
要になってきます.すなわち,画像の上方(b)に結像した光は,中央付
近を通った光が正しく点(b) に結像していても,レンズの上下を通っ
た光は縦にずれ,またレンズの左右を通った光もまた縦にずれて結像
しますが,この量が違うのです.
これにより,点(b) では上下と左右に均等にぼけるのではなく,楕円
形にぼけますので,非点収差と呼ばれるのです.
これも中心光束(主光線)付近の「上下近傍」「左右近傍」の光束のズ
レを表すのですが,縦収差ですので絞り込むと解決します.
非点収差の平均が像面湾曲であると言うことが出来ます.
・コマ収差
非点収差と同じように,点(b)にはレンズの上下左右を通った光も正し
く結像されるべきであるのに,中央を通った光に比べて上下左右を通っ
た光が「横」にずれることをコマ収差と言います.そのために彗星の尾
のような像が得られるため,彗星(コメット)を語源とする「コマ収差」
と呼ばれます.
絞り込むと解決します.
・歪曲収差
まっすぐなものが曲がって写ってしまう現象です.レンズの中央を通っ
た光が,そのまま曲げられずに点(b)に到達すればよいのですが,
少し曲げられることによって,結像点が横にずれます.
絞り込んでも解決しません.
[色収差]
色収差にも2種類あります.
・軸上色収差(縦色収差)
色によって,結像点が縦にずれることによる収差です.画像中心部の
像もこれによって影響を受けます.
星を写したときに,星は点として写るべきですが,その像の回りにブ
ルーなどの色が付いたハロが取り囲んでいるのはこの収差です.
絞り込むと解決します.
・倍率色収差(横色収差)
色によって,結像点が横にずれることによる収差です.平たく言えば,
赤い色の像と,青い色の像との大きさが異なることによる収差なので,
倍率色収差と言います.
コントラストのきつい被写体を写したときに,そのエッジ付近に色が
ついているとします.これが画像の周辺に行くにしたがって強ければ,
それは倍率色収差です.
絞り込んでも解決しません.
--- 日浦 慎作 Shinsaku HIURA ---
--- 大阪大学 基礎工学部 システム工学科 DC2 ---
--- Dept. of Systems Engineering, Osaka UNIV. ---