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[nikomat 4863] Re: [Q]Film latitude?



川口です。一応、アラーキーの後輩です(上野高校のではない)。
----- Original Message -----
送信者 : <Tanaka_Hirokazu@takeda.co.jp>
宛先 : <nikomat@ml.asahi-net.or.jp>
送信日時 : 1999年5月7日 11:06
件名 : [nikomat 4634] [Q]Film latitude?


> 立てば@田中 です。
>
> フィルムについて、よく[a.階調が豊か]とか[b.ラティテュードが広い]なん
> て表現しますよね。このaとbが同時に成立する理由がわからなくなりました。

超亀レスですが、参考にどうぞ。この問題はかなり複雑です。

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感光体の特性曲線

横軸:log H(Hは露光量であり、単位lx*s)
logの中身が単位を持ちますが、気にしないで下さい。

縦軸:写真濃度D=-log (透過率 or 反射率)

ガンマ:特性曲線の直線部の傾斜
特性曲線は両対数グラフなので、ガンマ≠1の時はべき関数になります。

ネガフィルムの特性曲線の例

D|                                   肩  *******
 |                                   ***   Dmax
 |                                **
 |                              *
 |                   直線部   *
 |                          *
 |                        *
 |                      *
 |                   *
 |ベ−ス+カブリ ***足
 |***************
 +---------------------------------------------
                                     log H
----------------------------------------------------------------------
フィルム、印画紙ともに有効な濃度域は2(100倍、約7絞り分)
低濃度側はベース+カブリ濃度で制限されます。
高濃度側はフィルムの像形成物質が全部現像された時のDmaxで制限されます。

通常のネガフィルムのガンマ=0.5
記録できるlog Hは、4(輝度範囲10000倍、約14絞り分)

通常のリバーサルフィルムのガンマ=2
記録できるlog Hは、1(輝度範囲10倍、約3.5絞り分)

撮影時にフィルムに記録される輝度範囲は、ネガで10000倍、ポジで10倍です。
これ以外の輝度範囲の情報は後の工程で復元することは不可能です。
実際には足部、肩部の非直線部が存在するので、少しは情報が存在します。
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ネガフィルムは、ガンマ=2の印画紙にプリントしてポジ像を得ます。
印画紙が記録できるlog Hは1(輝度範囲10倍、約3.5絞り分)
ネガ上に記録されているD=2 の範囲のうち、D=1 分の範囲を再現できます。
ネガ上のどこのD=1 分の範囲を再現するかは、プリント時に選択できます。

結果的にプリント上では、撮影時のlog H=2 分の範囲が再現できます。
ただし、ネガのベース+カブリ及び足部 または 肩部及びDmaxを使用した場合
には、印画紙上で再現される撮影時の輝度範囲は狭くなる場合もあります。
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ネガフィルムを表示通りの感度で撮影して、プリントする場合には、ネガ上の
足部付近からの直線部のD=1が使用されます。
この時、ネガ上には高濃度側にD=1、つまり露光オーバー側に輝度範囲10倍、
約7絞り分相当の余裕があります。

ISO1600のカラーネガフィルムをISO100で撮影しても、破綻のないプリントが
得られるのは、このことによります。

白黒フィルムで暗部の質感を再現するために、表示感度の1/4程度で撮影する
のは、足部の非直線部を逃げるためと解釈できます。ハイライト部の濃度には
相当の余裕があります。

ただし、露光オーバーの濃いネガは、プリント時に露光時間が長くなったり、
引き伸ばしレンズの絞りを開けなければならないなどの問題も引き起こすので、
極端な露光オーバーは避けるべきです。
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ネガ−印画紙システムのトータルガンマは0.5*2=1になります。
これは、明所の反射光によるプリント観察で、人間が最も自然な階調再現と
感じるのがガンマ=1であることによります。
リバーサルフィルムのガンマが2なのは、暗所で投影された像を観察する時に
人間が最も自然な階調再現と感じるのがガンマ=2であることによります。

リバーサルフィルムのガンマが高いのは、露光による再現像のコントロールを
容易にするため、とか、印刷適正を向上させるため、というのは誤解です。
スライド映写時に自然な階調特性を得られるようなガンマを設定したら、
ラチチュードが狭くなってしまったというのが真相でしょう。
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撮影−ネガ−プリントのトータルの階調再現性を考えるのには、階調再現図が
有効です。この図は回したり、紙の裏からから見たりする必要があるので、
プリントアウトした方が良いかもしれません。等幅フォントで見てください。

             *|* logH(被写体輝度)
             *|  *
           *  |    *
  4      *----|------*     1
       * A    |      | *
     *   |    |      |   *
   *<----|----|------|-----*
D * A    |    |      |     | *
--------------+-----------------logH(フィルム面露光量)
  * |    |    |      |     V ***
  **<----|----|------|-----**
    **   |    |      |   **
      ** |    |      V **
  3     **<---|------**    2
          **  |    **
            **|  **
             *|** D(ネガ)/logH(印画紙)

1の領域は被写体輝度とフィルム面露光量の関係を示します。
この曲線の平行移動は、絞りとシャッタースピードの変更で露光量を変化させる
ことに相当します。

2の領域はネガフィルムの特性曲線です。

3の領域は印画紙の特性曲線です。この曲線の平行移動は、プリント時に絞りや
露光時間の変更で露光量を変化させることに相当します。

4の領域には被写体輝度とプリント濃度の関係が表されます。
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実際にはこんなに簡単ではありません。

感光材料の特性はノンリニアです。足部が長いフィルムや、特性曲線が途中で
折れるダブルガンマのフィルムなどが存在します。

人間の目は周囲環境に適応して特性が変化します。
上記のように、明所で観察するためのプリントと、暗所で投影するための
リバーサルとでは、自然な階調特性を得るためのガンマ特性が異なります。

撮影レンズや引き伸ばしレンズのフレアなどがあり、低露光量側の露光量が少し
持ち上げられた形になります。
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さらにカラーフィルムの場合、DIRカプラーによる重層効果(層間現像抑制効果)
も考慮する必要があります。

カラーフィルムで画像を形成するのに使用される三種類の色素は、吸収波長域
がお互いに重なり合う部分があり、この重なり合いで色の濁りが生じます。
ある感光層が強く現像される場所で、他の感光層の現像を抑制してやると、
再現色の純度が向上します。他の感光層の現像を抑制するために、DIRカプラー
(Development Inhibitor Rleasing Coupler)が使用されます。

重層効果を利用したフィルムを単色光で露光した場合、白色光で露光した場合
よりもガンマが上昇し、硬調になります。
例えば、カラーネガネガフィルムの緑感色層では、緑光で露光した場合のネガ
のマゼンタ像のガンマは、白色光で露光した場合よりも高くなります。

DIRカプラーの利かせ方の加減によっては、過度の露光を与えると、像の硬調化
や中間色の再現不良(ネガ上には十分に被写体の輝度情報が記録されているが、
カラーバランスが狂ってしまう)を起こすことが予想されます。
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さて、ここで本題です。

>立てば@田中 です。
>
>フィルムについて、よく[a.階調が豊か]とか[b.ラティテュードが広い]
>なんて表現しますよね。このaとbが同時に成立する理由がわからなくなり
>ました。

基本的にaとbは独立しています。

カラー印画紙は基本的に各社1種類です。プロラボが利用できるならば、軟調な
プロ用カラー印画紙の選択肢もありますが、それでも2種類です。
印画紙が一定なので、ネガフィルムにある一定のガンマを持たせれば、トータル
のガンマが同じにできるはずです。しかし、そうではありません。
それぞれのフィルムでは、使用者層や被写体に合わせて色再現性を変えています。
例として、Agfaの Ultra50、Optima100、Portrait160が挙げられます。
Ultra50は重層効果を活用し、高い色純度を得るように設計されたフィルムです。
ただし、中間色を原色に転ばせて派手な発色に見せているという見方もできます。
Portrait160は重層効果をほどほどにし、意識的に色純度を抑え、中間調の再現性
を目的としています。肌色が原色の人はいません。
この2種類のフィルムを同じ印画紙にプリントした場合、完全な無彩色の場合以外
にはトータルガンマが異なるはずです。このことはaの差異に相当します。

ラチチュードは、特性曲線の直線部の長さに依存します。カラーの場合、
カラーバランスが維持されるという条件も加えて要求されます。

大まかに、重層効果をほどほどにした方がカラーバランスのラチチュードが広い
と言えます。したがって、aとbは両立できます。

特性曲線の直線部が短かったり、ダブルガンマになっているフィルムでは、ある
階調を得るための露光量が一点になってしまいます。これはラチチュードが狭い
ことに相当しますが、特性曲線の勾配が全体的に小さければ、豊かな階調が実現
できます。

重層効果をほどほどにするとaとbは両立しますが、色純度が低くなります。
Realaでは、4番目の感色層のDIRカプラーによって色純度を改善して、3者を両立
させています。4番目の感色層はネガ上に像を形成するわけではありません。
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参考文献
「写真の化学」、笹井明、写真工業出版社 ISBN 4-87956-004-9
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yujiro kawaguti(川口 裕次郎)
e-mail  ykawa@olive.ocn.ne.jp