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[nikomat 40917] Re:[yota]welding(Re: [ ご参考]VR70-200作例)
長文堂でござい。
#ぢつは、実用材料は専門外で殆ど知らないのであった。^^;
やまねさん:
> >軟鉄は低炭素なので焼きは入らない筈ですょ。
>
> そうですね。
> 私は焼きという言葉の定義が正確に理解できていないのですが、たとえば
> SS400でも赤熱後急冷したり、エアプラズマで切断した周辺部などが硬化
> しますよね。あれは焼きの一種なんでしょうか?全く違う現象?
座学編:
アバウトな話で、α鉄の固溶限である0.02wt%以上の炭素が入っている鉄を
真っ赤に焼いて急冷すれば、マルテンサイト組織(=焼き入れ組織)にな
ると思います。そうなれば硬くなるはずですが、どのくらい硬くなるかは
炭素量の単調増加関数なので低炭素では殆ど硬くなりません。刀で言う、
なまくら、になります。
硬さは炭素量に対して連続なので”ここから焼きが入る”という明確なス
テップはありませんが(普通はこのくらいの硬さが欲しい、というニーズ
があって炭素量を決める)、現場の目安としては”ヤスリがかからなくな
る”ぐらいのようです。少なくともそのくらい硬くなってくれないと手間
かけるだけの御利益が無いのでしょう。すると、炭素量としては0.5wt.%
以上になるとおもいます。
一方SSという安い鉄のJIS規格をみると硫黄や燐みたいにタチの悪い元素の
量は上限が定められていますが炭素量は規定がありません。となると、メ
ーカーやロットによっては割と高炭素のものがあっても不思議ではありま
せん。もちろん、あまり多く入っていると”軟鋼”としてのニーズに合わ
ないし、炭素量を下げるとコストが嵩んで安い鉄にならないから0.1〜0.2wt%
ぐらいになっているでしょう。
ということで、真っ赤にして急冷した金属組織だけ見れば軟鋼にも焼きは
入ることになるでしょうが、焼きが入ったとはいえない硬さにしかならな
いので、焼きは入らない、のでしょう。
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実技編:
そういわれてみれば高純度鉄や特殊鋼はいじるけど軟鉄なんていい加減な材
料はいじったことがなかった。じゃ、やってみるか。。。。。
実験室を探したけど無い。裏の畑に鉄棒が刺さっていたのを思い出して夜陰
に乗じて抜いてきた。炭素計は無いからグラインダーで火花を見たら多少は
炭素がありそう。。。組織を見るとフェライト地に多少パーライトが混じっ
ているから入っているのは間違いない。
いま電気炉が1200℃だから隅っこに入れて1000℃位の真っ赤にして
水に放り込んだ。結果:あっさりヤスリで削れた。
次にTIGのトーチで少し溶かして水に放り込んだ。こちらもヤスリで削れる。
手応えは、多少硬いかなぁ。。。。
#ロックウェル硬度計も無いの。
カッターでチョン切って組織を見たらどちらもラスマルテンサイトになって
いました。熱処理前と変わらない切断時のねばい手応えからみても、やはり
「焼き入り」というには炭素が足りないようです。
> 農機ではよほど重要部でない限り溶接品質が問われることは少ないので、
> ちょっとブローホールがあろうが適当にくっつけてしまいますが、
> 原発や高圧ボイラの配管溶接は相当神経が要るでしょうね。
7年前のヘリウム液化機の更新工事のとき溶接のプロ中のプロが来ました。
「原発反対!」という世論に押されて新規工事がないから原発の圧力容器を
溶接していた渡り職人が仕事を求めてヘリウム液化機ごときに来たのです。
それまで見たことのない超絶技巧でした。。。。。道具がシンプルだからモロに
腕の差です。
彼や配管の名人たちが言うには、こういう仕事は3Kそのもので若い人は全然来
ないし、偶に来ても1ヶ月もたないで辞めていく。だから、俺たちこの通り、、
とヘルメットを外せばみな白髪か髪の毛が薄い。一番若いのが当時40台とか。
俺たちが年とって引退したら誰がパイプラインや発電所を作るのかネェ。。。。。
まあ、10年やそこらは大丈夫だろうが、オラしらねえょ。。
そのうち電気も水も出ない国になっちまうだろうが、その頃は俺たちあの世だょ。
海外から呼ぶっつっても、IJPCでイランに行って工事やったけど土地の連中に
何教えてもダメなんだ。三角関数のわからない連中がどうやって配管やるんだぁ?
#学力があって勤勉な労働者が揃っていたから我が国が高度成長したってのは
#本当だった。
> テレビで簡単に「溶接欠陥」と片づけられてしまいますが、裏の苦労を知る
> 人は少ないような気がします。
職人の苦労を知ってそれなりのギャラを払ってくれれば良いのですが、財閥系
元請けの孫請けの孫請けぐらいだから。。。。。。。
名人の後継者が出てこないのは”修行が必要な上に3Kの割にギャラが安いか
ら”でもあります。現場が自宅近くにあるのは稀なことですから、1年で家族
に会えるのは盆と暮れの各1週間だけで10代から引退するまで作業員向け旅
館や宿舎で過ごす。荷物は着替えを入れた鞄一個。朝マイクロバスで現場に行っ
て、帰りもマイクロバスだから現場が何処かさえもわからない。楽しみは宿舎
で映画かTVを見るだけだし、選手生命(?)が縮むから大酒は飲まない。カ
ネはそっくり奥さんに送って老後に備える。若い頃は宿舎に戻っても溶接のト
ーチを握って畳の上で毎日練習していたそうです。
名人たちが引退して電気や水が出なくなる前にロボットが完成すればいいけど、
原発みたいに量産品ではない現場にロボットが役に立つかはさておいても、名
人の名人たるところは技だけではなく、技を日々進化させる、現場に適合させ
る思考回路と努力なんで間に合うかなぁ。。。。
私が手ほどきをお願いした白石さんという白髪の溶接名人の家は鹿児島の大地
震喰らったところで、石油備蓄基地建設中の10年間だけは家から通えたとか。
鹿児島に行くことがあったら電話帳をめくってみるつもりですが見つからない
でしょうねぇ。。彼はトッププロなので「社員」じゃなくて現場ごとに契約す
る「自営業」でした。作業服も道具も全て契約先のモノを借りるから荷物は下
着類と洗面用具だけ。溶接工やカメラマンだけでなく、そのうち研究者だって
ホントの一流はこうなるのかも。。。。
#や、やばい。。。。。。^^;;;
> >わたしは「たたら研究会」の路線でやりたいなぁ。
>
> 古いヤスリをガス炉(?)で熱して鍛造ナイフを造るってのに一時期興味アリでした。
ヤスリはかなり高炭素だから、普通に熱して叩けば多少脱炭するんで良い案
配になるかもしれません。
> この春も登り終わって、さあ残り1時間で下界というところで仲間が転んでしまい、
> なんとピッケルの刃が顔面に刺さってしまって大変な事態でした。
> 幸い眼には傷が付かなかったのですが、頬から口腔まで貫通し大出血。うへー。
> 止血に成功して大事に至らなかったのがラッキーでした。
やはり山男はフツーじゃない。。。。