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[nikomat 25675] Re: Grand Seiko 修理顛末



乾です.

At 20:08 01/12/27 +0900, you wrote:
>At 6:02 PM +0900 2001.12.27, Masatomo INUI wrote:
> >一般に機械製造は,
> >
> >金型の製作,部品の製作,組み立て
> >
> >という流れで進みますが,このうち金型だけは非常に高い技能が要求
> >されるので,ほとんどが日本製です.ただ比較的簡単な型(たとえば
> >携帯電話とか,パソコン,TVの外装用など)は,安い韓国や中国で製造
> >することも増えてきました.
>
>日本で優れた金型を作れるのは、職人的エンジニア達の技能が高いから、
>と理解してよいのでしょうか。これは簡単には海外流出しないと。

金型というのは,簡単に言えば,オス型とメス型の二つのよく似た部品を
組み合わせ,その隙間に樹脂や金属を流し込んだり,板金をはさみ込ん
だりして部品を製造するものです.

携帯電話やTVの外装のパーツは,一見すると複雑ですが,実は型としては
比較的単純で,ほとんどが上に示すとおりの方法で作れます.精度もさほど
いりません.したがって比較的浅い経験の技術者でも,3次元のCADやCAM
といわれるプログラムを使えば,ある程度のものはできてしまいます.最近で
は,発注側もデータを3次元で提供してくれるので,処理はさらに簡単になります.

ところが,そのような簡単な方法ではできない部品もたくさんあります.特に
複雑な凹凸が絡んで,オスとメスに単純に分けられないケースでは,型を
さらに細分し,それらが樹脂を成型する際に,ある種の組み付け運動をするように
設計をします.型を構成するパーツも複雑な形なので,それを
色々な部分に分けて,あるところは切削,別なところは放電といった違った
加工法を適用したりします.これらにはかなり高度なノウハウが必要で,
経験をつまないと設計できません.ハウツーはないのです.

また樹脂や金属は成型時に収縮するので,高精度の部品用の型設計の時
にはそれを見込んで作ります.したがって発注側から3次元データが送られて
きてもそれを使うことができません.全てはゼロからの設計になります.これは
手間もかかりますし,やはりかなり経験しないとまともなものはできません.

日本は,こういった型の「作りこみ」に深い経験を持っており,これはいくら
3次元のCADが普及しても,簡単には海外には移転しません.また発注
側の会社も型は製造の命ですから,多少コストがかかっても,精密なよい
型をきちんと作ってくれて,しかも相談しやすい会社を手放しません.以上の
理由から,精密かつ高品質な金型は海外においそれと流出することはない
でしょう.

さらに日本の型メーカは,発注側とかなり綿密な議論をして型設計をしま
す.型メーカの側から,発注側に「これでは作りにくいから設計変更した
ほうがいい」とアドバイスすることもしょっちゅうです.そういった綿密な
打ち合わせができるのも,発注側と型メーカが,同じ国にあり,同じ言葉
で話すことができるからです.これが相手が中国ではそうはいきません.

>現場では、この技能は後継者達に受け継がれていってるのですか?

これはかなり問題です.型の技術者は,日本ではかなり厚遇されている
のですが,基本的に職人の世界ですから,若い人は敬遠しがちです.

ところで,今日はキヤノンとかニコンのプラの鏡胴つくりの型を見学した
のですが,プラ製というと日本では安物といわれますが,型をみてしまう
と,かなり認識がかわりますよ.あれだけの型が使われて製造されて
いるなら,プラ製でもいいな,と思ってしまいます.

では.