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[nikomat 25688] Re: Grand Seiko 修理顛末
ひうらっす.
乾さんの話は面白いのですが,こと,今話題の,時計の話,職人技の話
とは,まったく逆の方向の話ではないでしょうかね.
いや確かに金型製作は経験の世界で職人技が必要というのはよく言われ
ますが,ここでいう職人技,というのは,ちょっと違うはずです.
むしろ,プレスにせよ,射出成型にせよ,これらは「設備の力で同じモノを
たくさん作る」という技術であって,「1個1個,職人が仕上げる」ものとは
違うはずです.むしろ,そういう職人技を抹殺してきた張本人と言っても
良いでしょう.
実際,ここで議論されているクラスの時計は,他の工業製品ではある種,
工芸品の趣もありますので.
> >一般に機械製造は,
> >
> >金型の製作,部品の製作,組み立て
> >
> >という流れで進みますが,このうち金型だけは非常に高い技能が要求
> >されるので,ほとんどが日本製です.ただ比較的簡単な型(たとえば
> >携帯電話とか,パソコン,TVの外装用など)は,安い韓国や中国で製造
> >することも増えてきました.
この点に関してですが,これは戦後普及した,安価な量産品に関する
常識ですよね.
このクラスの時計に関してはコスト感覚がかなり違うので,あまりこう
簡単には片付けられないようです.例えば,ケースの頑強さをウリにしている
メーカの時計では,SUS316L などの,厚み 1cm 程度のステンレス板から
打ち抜いた部材を,鍛造+熱処理のサイクルを20回ぐらい繰り返して整形しますが,
その後,切削加工で他部材との接合部などの形を整え,さらにその後に何段階もの
手作業の磨き工程を経て最終的なケースが出来上がります.
金無垢のケースなどであれば,なおさらです.
プレス工程が直接外観に現れる部分はほとんどないといえると思います.
また,この工程で「職人芸」としてよく言われるのは,主として鏡面に仕上げる
ための研磨技術です.
内部の部品に関しても,綿密に機械加工が施されているものが多く,
(その機械加工の模様にいろいろ名称がつけられているほどです)
成型結果が最終形態という部品はあまり無いはずです.
ダメなものもありますが,良いものは,表面には美観的な観点もあり,
磨きがかけられます.
ギアなどはプレスで抜くものもあると思いますが,機械加工で仕上げられて
いるものも多いはずです.その他,リュウズを引いたときに働くレバーや,
クロノグラフのシーケンスをつかさどる部品類は薄板プレス部品のものが
ありますが,これとて,抜いた後に研磨がかけられていたりしてバリは
取られています.カセットデッキやビデオデッキのメカ部のような状態で
放置してあるものはほとんどないと思います.
これは安物の話で,高級品のムーブメントは,このような部品類も全て
機械加工で製作されているものも多いはずです.
外装に関しても,例えばブレスレット部のコマも,成型ではなく,
引き抜き材などから1コマづつ切り出した後に機械加工で仕上げたり
するようです.
特に外から見えるところ,精度に影響を及ぼす部分はまず必ず,
なんらかの手が入っていると考えていいと思います.
実際どのようなものになっているのかは
http://www.timezone.com/WatchSchool/The_Horologium/the_horologium.shtml
を見られると大体分かると思います.
THE A-B-C'S OF WATCH FINISH
http://www.timezone.com/WatchSchool/The_Horologium/finish/index.html
などは面白いです.
そういう意味でまだまだ「職人技」の必要な部分で,昨今発達した,
型でイッパツで再集計まで仕上げる製品とは対極にあるものの
1つだと思います.
確かに国産品の生産性(価格)と品質の両立には,一発で最終形へ持って
いける高品質な金型が寄与していると思います
しかしその後の仕上げ工程を許容するのであれば,必ずしも金型の品質が
最終的な品質を決めるわけではないのではないでしょうか.
しかし現代の量産品は,すべからく価格競争で,こういう手作業を経た
製品と言うのは非常に数少なくなっていると思います.
時計などはそういう中でわずかに生き残っている数少ない商品かも
しれません.
#いくら型が良かろうと,成型イッパツ,というものには萌えないワタシ.
#やはり挽き物がふんだんに使ってあるS型ニコンとかはいいですねえ.
まあ,どのような製造方式であろうと,同じものが出来れば安いほうが
いいのですが,最近のものを見ていると「型からの抜けやすさ」「製品での
型の継ぎ目の見えにくさ」「プレスでのしわの寄りにくさ」などが
優先されていて,デザインがそれに影響されている場合があり,これは
あまり気持ちいいものではないと思っています.
逆にいえば,ニコンS3の復刻モデルがあの値段になるのもわからなく
ないなあ,という感じです.こういうものを作る技術はどんどん失われて
いっているのでしょう.
ちなみに Grand Seiko がいつまで買えるか?ですが,
国産では希少な存在であり,機械式は復活間もないと言うことも不安要素ですが,
製造会社の経営的な問題も一部掲示板 :-) などで話題になっているようです.
あまり安心していられるとは限りません.
一方,機械式時計そのものに関しては,スイス時計などは,クォーツ
ショックから立ち直り,現在かなり伸びているようです.
スイス時計協会
http://www.fh-tokyo.com/index.htm
なんかを見ている限りでは,非常に好調に見えます.
ただしこちらも,ルイヴィトングループやスウォッチグループなどによる
買収合戦,経営統合の渦にあり,欲しい時計がいつまであるかどうかは
保証できない状況でしょう.
では
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日浦 慎作 Shinsaku HIURA
大阪大学大学院 基礎工学研究科
システム人間系専攻 システム科学分野
〒560-8531 豊中市待兼山町 1-3
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http://www-inolab.sys.es.osaka-u.ac.jp/users/shinsaku