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[nikomat 29158] Re: [nikomat 29034] Re: Re:BC−4
お久しぶりです。川口です。超亀レス&長いです。
いげたさん
> 基本的には、電子正孔対の再結合があるといかんくて、
> 低照度では、中間状態くらいまでしかいかなくてもどっちまう
> ことがあるので、能率が悪いって認識してますが、
> 高照度だとどうなんでしょうね。照度が高くていけないというより、
> (露光量が一定とすれば)時間が短くなりすぎていかんという気が
> します。
ハロゲン化銀粒子の感光機構は、AgX+ hν −> Ag(金属銀)+ X です。
詳細に見ると、
e- + hν −> e-* (光量子吸収で、電子が価電子帯から伝導帯に励起)
e-* + T −> T- (励起電子がトラップ準位-結晶欠陥など-に捕獲)
T- + Ag int+ −>T(Ag1) (格子間銀イオンがトラップの電子を中和)
ここでできたT(Ag1)もまた電子トラップとして働き、伝導帯からの深さは
最初のTよりも深く(安定に)なります。引き続き光量子が入射し、
e- + hν −> e-*
e-* + T(Ag1) −> T(Ag1)-
T(Ag1)- + Ag int+ −>T(Ag2)
・・・
T(Ag3)- + Ag int+ −>T(Ag4)
・・・
このような繰り返し過程で、銀原子のサイズが大きくなっていきます。
この際に形成されるT(Agn)は電子トラップサイトとなり、銀サイズが
大きくなるほど伝導帯からの準位が深く(安定に)なっていきます。
銀原子サイズが1〜3個のT(Ag1)〜T(Ag3)は準安定ですが、現像しても
粒子は現像されません。このため、亜潜像と呼ばれます。
銀サイズが4個以上になると現像可能となります(潜像)。
潜像が粒子に存在すると、現像で粒子全体が還元され黒化銀(顕像)に
なります。
低照度露光は光量子が入射してから次の光量子が入射するまでの時間が
長い状態といえます。
このことは T や T(Ag1) といった浅いトラップに電子が捕獲された状態で、
次の光量子が来るまでの時間が開くということを意味します。
この間に、トラップされた電子が熱的に励起してトラップから抜け出ていくと、
亜潜像核は破壊されてしまいます。
銀サイズが4個になるまでに、4個+熱励起で失われた電子の個数の
光量子の入射が必要になり、入射光量子の利用効率が悪化します。
これが低照度相反則不軌です。
高照度露光では光量子が入射する間の時間が短い状態といえます。
このために伝導帯に複数個の電子が励起されます。
ハロゲン化銀粒子は一粒子中に複数の電子トラップ部位を持ちます。
複数の電子は手近なトラップに捕獲され、複数の亜潜像核を形成します。
引き続きの露光で、電子は複数個の亜潜像核にトラップされていきます。
現像可能となる銀サイズは4個です。複数の亜潜像核が形成されると
入射光量子の利用効率が悪化します。以下に少し極端な例を示します。
例えば、合計9個の光量子が入射する場合を考えます。
高照度露光のため、一度に伝導帯に3個の電子が励起されました。
手近なトラップに落ちて、亜潜像核 T(Ag1) も3個形成されました。
引き続きの露光で、最終的には3個のT(Ag3)が形成されます。
しかし、何個あってもT(Ag3)は亜潜像核であり、現像不能です。
最初のT(Ag1)が1個だったら、9個の光量子によってT(Ag9)の潜像核が
形成されて現像可能になったはずなのに、顕像が形成されませんでした。
銀サイズ4個になるためには、更に1個、合計10個の光量子が必要です。
この例の場合、高照度露光では感度が4/10になってしまいました。
高照度相反則不軌のメカニズムは大体こんな感じです。
#学生時代にはそういう研究室にいました。星屋も多かったような...
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yujiro kawaguti(川口 裕次郎)
e-mail bpazg700@tcct.zaq.ne.jp